MRは勉強が必須になる職業です。営業で大きな成績を出しているMRであるほど勉強しており、それに伴ってどのように製品情報を提供すればいいのか理解しています。

医療は日々進化していくため、勉強しないMRが成果を出すのは難しいです。ただ、これは勉強さえすればそれだけで他のMRとの差別化になり、医師・薬剤師から重宝される存在になるという意味でもあります。

勉強が大変というのは、どの業界の営業職でも同じです。勉強することでより精度の高い情報提供ができるようになり、医師から信頼されます。そうすれば成績は上がり、転職したときであってもキャリアアップを目指すことができます。

それでは、どのようにしてMRは適切に勉強していけばいいのでしょうか。ここでは、MRとして理解しておくべき勉強法について解説していきます。常に勉強しておくことは、自らのキャリア形成や転職でも活きてきます。

MR活動で必須となる勉強法

MRになったとき、最初の勉強としてはMR認定資格取得があります。ただ、MR認定資格は全員が取得するべき資格であり、合格率も高いです。そのため、MR認定資格を取得しただけでは「MRとして勉強を頑張っている」とはいえず、資格取得はあくまでMRのスタートラインに立ったにすぎません。

本来、MR認定資格に合格しているのは当然のこととして、それ以上の知識を仕入れたうえで医師へ情報提供しなければいけません。

医師というのは、医療のスペシャリストです。そうした専門家に対して情報提供する必要があるため、MR認定資格くらいの知識ではまったく役に立ちません。そこで、独自の勉強が必要になるのです。

自分の担当商品と競合商品の情報を覚える

勉強の第一段階としては、自分が担当する商品と競合商品の特徴を理解することがあります。医薬品には薬効薬理、薬物動態、副作用などがあり、薬によって特徴が異なります。

これらは添付文章やインタビューフォーム(IF)を見ればわかります。そこで、それぞれの薬がどのような特性をもっているのか確認するようにしましょう。

まず、どのような薬理作用をもっている商品なのか理解しましょう。例えば高血圧の薬であると、「主な作用の他に、他の受容体へ働きかけることによる相乗効果を期待できる」「従来とは異なる作用メカニズムによって効果を発揮する」など、薬によって細かい性質があります。

他にも薬物動態(薬が体内に入ったあとの吸収・代謝経路など)による差別化が可能です。例えば糖尿病治療薬には「他の薬は主に腎排泄を受けるが、肝代謝型の薬なので腎機能悪化患者にも活用できる」という特徴を有する薬があります。

こうした違いを明確にすれば、腎機能が悪化している糖尿病患者に対しては、この薬を処方しようと医師は考えます。糖尿病は腎障害を起こす病気なので、このように代謝経路が他と異なる薬は重宝されます。

ただ、どれだけ効果が高かったとしても副作用が表れてしまえば投与中止になります。特に医師は副作用情報に敏感なので、「どのような副作用が表れるのか」「副作用の回避方法はあるのか」などを含め、副作用情報を覚える必要があります。

臨床試験での結果も重視されます。臨床試験の結果、「他の薬剤よりも強力な効果を得られた」「副作用発生率が他剤よりも顕著に低かった」など新たな知見が分かることは多いです。

薬の適応も確認しましょう。例えば抗アレルギー薬であれば、「7歳未満の小児には投与できない」などのようになっている薬は多いです。もし、こうした薬を6歳の小児へ処方した場合、「適応外使用」ということになり、医療機関は保険請求してもお金を受け取れなくなります。

ただ、他の抗アレルギー薬では2歳以上から投与できるなど、小さい子どもでも保険適応の対象になる製品が存在します。

その薬にどのような適応があるのかについては、病院やクリニックの経営を左右する重要な問題です。そこで、薬をどのように保険請求すれば却下されにくくなるのかについての情報もMRは把握しておく必要があります。

ちなみに、ジェネリック医薬品であれば「製剤情報」が差別化になるため、ジェネリックMRであればこうした勉強が必要になります。

ガイドラインを熟読する

自社や他社の製品情報を理解することは、すべてのMRが行っています。そのため、上記の内容は全MRにとって必須の勉強だといえます。むしろ、これができていなければ医師・薬剤師に対して何も情報提供できません。

ただ、他にもMRが学ぶべきことがあります。それは、ガイドラインです。「どのようにして病気を治療すればいいのか」という標準治療を定めたものがガイドラインです。あらゆる病気に対して、ガイドラインが定められています。

医師がどのように患者さんの治療を進めていくのかについては、ガイドラインがもとになっています。ガイドラインから逸脱したことはほぼ行いませんし、すべての治療の大元になっています。

そこで、ガイドラインを熟読するようにしましょう。治療方針を含め、どのように患者さんを治療していくのかを理解していなければ、当然ながら情報提供できません。もちろん、医師によって治療方法は異なるものの、大筋はすべて共通しています。そこで、ガイドラインを把握しておくのです。

オンコロジー(抗がん剤領域)のMRなど、専門性が高くなると特にガイドラインの重要度が増します。病気のステージ(進行度)によって使用する医薬品が違うため、治療の全体像を把握した上で自社商品を紹介しないといけないからです。

また、分からないことは医師にたずねるようにしましょう。まったく勉強していない状態で聞くのは失礼に当たりますが、きちんと勉強した上で分からないことを医師に聞くのは問題ないです。

医師は人に教えることが好きな人が多いです。あなたが嫌われていない限り、丁寧に教えてくれるはずです。

医師の講演会を聞く

ガイドラインを理解していることは必須だとはいっても、実際のところガイドラインには数年前の古い情報が載っています。ガイドラインの改定はあるものの、ガイドラインに載っていない情報はたくさんあるのです。

例えば、新薬が発売されたとしてもその使い方を含め十分な情報は、ガイドラインには載っていません。ただ、新たな薬が発売され、たくさん使われるようになるとその数年後にガイドライン改定でようやく載ることがあります。こうしたとき、ガイドライン一辺倒の情報提供では「古い情報だけで勝負する」ことになります。

それでは、ガイドラインにない情報を集めるためにはどのようにすればいいのでしょうか。最も手軽で確実な方法としては、医師の講演会へ出席して聞くことがあります。

「ガイドラインには載っていないものの、薬をこのように使えば治療効果が増す」「副作用回避のため、この薬剤を追加すると効果的」「このような患者さんの訴えがあるため、薬の使い方をこう工夫するといい」などの情報を医師の講演会から盗み取るのです。

現場で活躍している医師にとって、こうした生の情報は非常に役立ちます。ガイドラインに載っていない情報まで提供することで、重宝されるMRになるのです。

医師の講演会については、「著名な先生の講演がどこで行われているのか」について自社の学術部門やMRに聞くと教えてくれます。また、医師同士で講演会の情報を共有していることが多いため、医師に直接聞いても問題ありません。

さらに、病院内で医師が他の医療従事者や患者さん向けに講演会を行っていることがあるため、これを聞いても大丈夫です。

医師・薬剤師が活用する日常会話の言葉を理解する

他には、医師・薬剤師などの医療者が日常的に使っている単語を理解しておくことも必須です。言葉が分からなければ、当然ながら何をいっているのか分からないからです。

例えば、以下のような会話を理解できるでしょうか。

「今日のクランケはDo処方でいこうと思う」

「あの患者さん、ギネ医のムンテラで薬の副作用が怖くなっているらしい」

知らない人が聞けば、何をいっているのかまったく分かりません。ただ、これを誰でも分かる言葉に直すと、次のようになります。

「今日の患者さん、いつもと同じ処方でいこうと思う」

「あの患者さん、産婦人科医による説明で薬の副作用が怖くなっているらしい」

医療業界に属していると、よく分からない単語を聞くようになります。ただ、分からないのは最初だけであり、単語の意味さえ覚えておけば問題ありません。そこで、MRとして以下の単語は日常会話として理解しておくようにしましょう。

単語意味ポイント
オーベン上級医師(研修医や若い医師を)指導する立場にある医師
エント退院ドイツ語の「Entlassen」が語源
クリニカルパス治療スケジュール治療方針や順序など、スケジュールを表したもの
ケモ化学療法抗がん剤治療のことを化学療法という
コンタミ汚染・混入注射剤の調整中に細菌が混入するなど、意図しない汚染のこと。英語のContaminationが語源
サマリ診療記録の要約診断名、症状、治療内容などを要約したものを指す
ステル死ぬ「○号室の患者さんが死んだ」などの不吉な言葉を他患者に聞かれないため、ステルという言葉が使われる
Do(ドゥー)同じ「Do処方(いつもと同じ処方)」などで活用される
ネーベン下級医師研修医や若い医師など、指導を受ける立場にある医師
ムンテラ患者さんへの説明「インフォームドコンセント」と似た意味

その他、領域ごとに特徴的な単語が出てくるため、そのつど勉強するようにしましょう。例えば産婦人科領域であれば、「カイザー(帝王切開)」「ベッケン(逆子)」「ゲブ、ゲブルト(分娩中)」「アウス(人工妊娠中絶)」などがあります。

診療科を表すものとしてもアウゲ( 眼科)、ウロ(泌尿器科)、オルト(整形外科)、ギネ (婦人科)、デルマ(皮 膚科)、プシコ(精神科)、キント(小児科)などが知られています。

MRとして医師から信頼され、さらなる成果を目指す勉強方法

ここまで、MRとして成果を出すために必須となる勉強法について解説してきました。数字(ノルマ)を達成できないMRの特徴としては、一つに勉強不足があります。MRが勉強することで、ようやく医師と対等に話ができると考えましょう。

上記のことを行うのはMRとして当然だといえます。そして、さらなる勉強方法として「文献をチェックする」「学会へ参加する」「臨床試験の情報を把握する」まで意識しましょう。

文献をチェックする

文献とは、論文のことです。論文とはいっても、当然ながら英語で書かれています。ただ、英語について堪能である必要はありません。私も英語はほとんどできません。

ただ、論文では最初に要旨(Abstract)と呼ばれる「この論文では何がいいたいのか」について書かれている部分があります。ここを読むようにしましょう。何度も同じ単語や言い回しが出てくるため、慣れれば問題なく読めるようになります。

要旨を読むだけでも、そこから多くの情報を入手できます。

ここができるようになれば、次は中身です。医療論文では「序論 (Introduction)」「方法(Methods)」「結論(Results)」など、いくつかのパートに分かれています。論文では書く順番についても決められています。

こうした中で、要旨(Abstract)の次は「考察(Discussion)」を読めれば問題ありません。極端にいえば、要旨(Abstract)と考察(Discussion)だけ読んで他は無視しても問題ないです。

考察の部分には、論文執筆者の「なぜそのような結果になったのか」「結果から、どのようなことがいえるのか」などが独自の視点で述べられています。

必ずしも予想通りの結果になるとは限らないため、考察には「こういう考えが推測される」などのような言い訳が書かれてあったり、「○○を活用することで、副作用低減を実現できる可能性を期待できる」のように新たな発見をもたらすことが記載されていたりします。

そして重要なのは、「考察(Discussion)に書かれてある内容はMRの営業トークとしてそのまま活用できる」という点です。医師に自社商品のデメリットを指摘されたとき、論文の考察に述べられていたことを思い出しながら話すのです。

また、医師に自社商品の優位点を訴えたい場合も同じです。論文の考察部分を自分の言葉で医師に伝えれば問題ありません。

もちろん、すべての英語論文の考察(Discussion)を読むのは現実的ではありません。そこで、まずは要旨(Abstract)に目を通し、そこから気になった文献だけ考察(Discussion)を読むといいです。

注意点として、最初から論文を読もうとしてはいけません。英語論文は読むのが簡単だといいますが、これは半分本当で半分ウソです。確かに慣れれば簡単ですが、内容は医療英語であり、難しい表現が多いからです。

そこで、まずは日本語で理解できるようにしましょう。日本語を読んで理解できないにも関わらず、英語を読めるわけがないからです。そこで、添付文章やガイドラインの情報を理解し、さまざまな医師の講演会へ出席し、自分の知識レベルを先に高める必要があります。

そうした上で論文を解読すれば、医師からは「最新の情報を提供してくれる便利なMR」として重宝してくれます。これは結果として患者さんへの診療に役立つため、結果として医療へ大きな貢献をしているといえます。

慣れれば毎日、最新の論文をチェックして序論 (Introduction)へ目を通すようにしてみてください。英語論文については、「PubMed」というサイトをほとんどの医師や研究者が使うため、同じようにこのサイトへアクセスすれば問題ありません。調べたい薬剤名(一般名)を入力すれば、あなたが必要とする情報を引き出せるようになります。

製薬会社はPubMedと契約しているため、自由に論文の中身を見ることができます。ただ、大学病院や一部の基幹病院を除き、医師の多くはPubMedで検索したとしても、論文の中身まで見ることができません。無料で論文を見ることができるMRとは違い、医師が論文を取り寄せるときは有料になります。

そのため、論文を読んで最新の知見を教えてくれるMRは医師にとってありがたい存在です。特にこうした論文を用いた情報提供は「大学病院・基幹病院などの大病院」や「勉強意欲の高い開業医」に対して大きな効果を発揮するようになります。

学会へ参加する

よりMRとして成果を出すためには、学会へ参加することまで考えましょう。学会でも同じように、ガイドラインなどには載っていない最新の研究結果や知見が発表されているからです。学会に行けば、自社品や競合品を含めあらゆる研究結果が発表されています。

また、自分が関わる領域の最新治療法を学んだあと、自分が担当するエリアの医師にそれを紹介しても問題ありません。その学会に参加していない医師にとってみれば、あなたが勝手に学会に参加して必要な情報だけをまとめて提供してくれるので感謝してくれます。

ただ、学会へ参加するときはポイントがあります。目的なく学会に参加しても、何も得られないので事前準備をしっかりするようにしましょう。

学会へ参加するとき、必ず「どのような発表が行われるのか」というものをまとめたデータが提供されます。このとき、学会が大きくなるほど発表される題目の数が多くなるため、あらかじめ「必ず聞くべき発表」「気になる発表」をメモするようにしましょう。

学会が始まる前から、どの発表を聞くのかスケジュールを立てておくのです。学会発表では口頭発表(オーラルセッション)とポスター発表の2種類があるため、これについてもどの時間にどの会場で誰の発表を聞くのか確認しておく必要があります。

学会へ参加するとき、自分が知識を仕入れるというよりも「あの医師の診察に役立つ情報を入手できるような発表の可能性が高い」「この情報を医師に提供すれば、喜んでもらえるだろう」などのように、医師への情報提供を前提とした学会参加を意識しましょう。

MRの勉強は患者さんへの貢献になる

MRとして大きな成績を残す人に共通することは何でしょうか。それは、「患者さんのことを第一に考えた情報提供を実践している」ことです。

ただ、医師に対して質の高い情報を提供するためにはどうすればいいのでしょうか。そのためには、自ら必死で勉強するしかありません。このとき、ここまで述べてきたことから分かる通り、本には載っていない情報を提供することが重要になります。

書籍やガイドラインに載っている情報であれば、当然ながら医師・薬剤師は知っています。そのような情報を伝えても意味はありません。そこで、自ら著名な医師の講演会を聞きに行ったり、学会へ参加したりして本にも載っていない生の情報を拾い集める必要があるのです。

さらに、自分が取り扱う領域だけでいいので、軽く論文を解読できるようにしましょう。論文は英語で書かれています。私も英語は話せませんが、それでも何とかなっています。もし、英語力ゼロで中学英語すらも分からない場合、学術部門の力を借りるなど何とか解読できるまでのレベルにはなりましょう。

特に大学病院や基幹病院を担当している場合、こうした学術的な情報提供は非常に大きな力になるはずです。

開業医では自分なりの言葉に要約する

なお、開業医では「論文を含めた最新の知見に基づき、治療方針を大きく変える」などのようなことはほとんどありません。ただ、そのような場合であっても、あなたが学会や論文などから最新の情報を提供するのは大きな意味があります。

開業医であれば、特定の疾患だけでなくさまざまな患者さんが訪れます。こうしたとき、「どうしても治療が優れない患者さん」が出てきます。

そうしたとき、「海外ではこのような治療によって改善した例がある」などの情報を根拠と共に提示すれば、医師はあなたのことをありがたく感じてくれます。学会や論文で得た情報をあなたの言葉でまとめ、要約して医師に伝えるのです。

実際のところ、多くのMRは自社商品を説明することばかり考えます。これは、自分の成績を上げることだけを考えているからです。

そうではなく、もっと医師の診察を助けることで患者さんへ質の高い医療を提供することに意識を向けましょう。そうして、自社商品の説明だけでなく、医師が必要とする情報をメインで提供するようになれば、医師から信頼されて結果として成果がついてくるようになります。

MRの勉強が大変なのは、このように本や社内情報にもない情報をかき集め、医師へ情報提供する必要があるからです。ただ、これをきちんと行えるようになれば、一流のMRとして大きな成績を残せるようになれます。

転職するときであっても、キャリアアップや年収増を含めて求人先から重宝されるようになります。MRは常に勉強が必要になる職業であるため、こうしたことを意識して情報提供する必要があります。


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