製薬会社として国内大手の企業にアステラス製薬があります。MRとして中途採用を考えるとき、応募する求人先候補として捉える人の多い会社です。
多くの製薬会社がジェネリック医薬品を販売するなか、アステラス製薬は新薬の研究・開発・販売だけに特化する戦略を採用しています。扱う領域は泌尿器や高血圧、がん、免疫疾患、疼痛、呼吸器と幅広いです。
そうした多くの製品を取り扱い、国内ナンバーワンを目指すためにアステラス製薬は活動しています。
アステラス製薬に中途採用されるためには、当然ながら志望動機や転職理由(退職理由)を考えなければいけません。このときは会社のことを知っておく必要があるため、ここではアステラス製薬についてより深く解説していきます。
もくじ
アステラス製薬の成り立ち
会社の特色を理解するためには、会社の成り立ちを学ばなければいけません。
まず、アステラス製薬は合併によってできた会社です。2005年に藤沢薬品工業と山之内製薬が合併し、現在のアステラス製薬になりました。
藤沢薬品工業の歴史
1894年に大阪で藤澤友吉が藤澤商店(ふじさわしょうてん)として創業したことから歴史が始まります。1897年1月には「藤沢樟脳」という製品名で家庭用の防虫剤・防臭剤として樟脳を販売しました。現在でも、タンスの防虫剤として藤沢樟脳は広く活用されていますが、最初は医薬品ではなく家庭用品の販売からスタートしたのです。
その後、藤沢薬品工業では医薬品の販売まで手掛けるようになりましたが、家庭用品を取り扱っていたことからパイプ洗浄剤や芳香剤などの研究開発を行っていました。ただ、これらの事業は1980年代に他社へ売却しています。
藤沢薬品工業が開発した画期的な新薬としては、免疫抑制剤プログラフ(一般名:タクロスムス)が有名です。
臓器移植のとき、免疫の働きによって拒絶反応が起こります。そのため、臓器移植したとしても結局のところ拒絶反応によって大きな副反応に悩まされることになります。そうしたとき、免疫抑制剤タクロスムスを活用することによって、劇的に臓器移植の成功率が向上するようになったのです。
タクロリムスが「茨城県・筑波山の土壌細菌が生み出す物質として発見された」というストーリーは有名です。現在、タクロスムスは免疫抑制剤の他に関節リウマチやアトピー性皮膚炎など、さまざまな免疫疾患に対して活用されています。
山之内製薬の歴史
一方の山之内製薬は1923年の創業です。大阪で山内健二が山之内薬品商会を設立したのが会社の始まりです。
創業初期のころ、山之内薬品商会は1925年に神経痛・リウマチ治療薬としてカンポリジンを発売します。痛みを抑える対症療法ではありますが、カンポリジンによって製薬会社としての基礎を築き上げました。
山之内製薬が創薬した有名な医薬品としては、消化性潰瘍治療薬ガスター(商品名:ファモチジン)や前立腺肥大症治療薬ハルナール(一般名:タムスロシン)、過活動膀胱治療薬ベシケア(一般名:ソリフェナシン)などが知られています。
アステラス製薬の誕生
そうした上で、2004年には藤沢薬品工業と山之内製薬の一般用医薬品部門を統合し、ゼファーマが誕生しました。その後、2005年に藤沢薬品工業と山之内製薬が合併し、アステラス製薬が生まれます。
前述の通り、アステラス製薬は新薬の開発研究・販売だけに特化する戦略を打ち出しています。そうした特徴から、かつて存在したゼファーマは他社に譲渡し、医療用医薬品だけに専念することになりました。
アステラス製薬になった後も過活動膀胱治療薬ベタニス(一般名:ミラベグロン)などを創出するなど、研究開発を行っています。
ただ、当然ながら自社開発だけの新薬で勝負するのは難しいです。そのため、他社製品を導入して販売したり、コ・プロモーション(他社製品を一緒に販売すること)をしたりすることによる新薬発売の方が圧倒的に多いです。
これは、「MRとして販売するべき新薬がいくつも出てくる」という意味でもあります。
新薬が出なくて同じ製品ばかりプロモーションしている製薬会社のMRとは異なり、アステラス製薬のMRは常に新薬を医師に対して説明する必要があります。新薬を取り扱うことで、常に新鮮な気持ちでMR活動をしたい人には最適です。
新薬が多いことはアステラス製薬の強みだといえます。ただ、新薬とはいっても他社製品の導入がほとんどであり、自社開発での新薬が少ないことは弱みになります。
アステラス製薬での営業評価
内資系の大手製薬会社でもあり、アステラス製薬の年収は非常に高いです。その代わり、年収・給料を含め評価の大半は「MRとしてどれだけ成績を出したのか」によります。実績が評価されるため、あなたの実力次第でいくらでも評価が上がっていくのです。
昔ながらの年功序列もなく、基本的には実力次第で年収やその後のキャリアも変わってくると考えてください。
また、本人の能力次第で希望すれば社内のすべての部署に異動することができます。もちろん、35歳までなど年齢の若いときまでに自分のキャリアを見つめなおして異動を実現する必要はあるものの、実力があればどのようなキャリアであっても自ら作り出すことができます。
内資系企業であるため、例えば本社で医薬品販売の戦略を練ったり、アジアで海外事業を展開したりすることも可能です。また、実力主義なので若いときから所長として活躍することもできます。
MRとしての働きやすさ
成果を出せる人であれば、アステラス製薬は成績重視の会社ですし、新薬がたくさん出てくるので非常に働きがいがあります。
女性にとっても、社内結婚に限っていえばペアでの転勤があったり、時短MRが認められたりしています。外資系には劣るものの、内資系の中では女性の働きやすさを整えている会社がアステラス製薬です。
ただ、それでもMRである以上はフルタイムでの仕事を考えなければいけません。新薬がたくさん発売され、そのたびに数字(ノルマ)を達成する必要があるため、ある程度の激務は想定しておく必要があります。
アステラス製薬の主要製品
それでは、アステラス製薬ではどのような製品が存在するのでしょうか。製品から会社の特徴や強みをもつ領域を学べるため、ここからアステラス製薬について学んでいきます。
泌尿器・腎臓疾患
アステラス製薬の中でも、特に強みのある領域として泌尿器・腎臓疾患があります。自社開発の製品が多く存在する領域であり、シェアの高い製品をいくつも保有しています。
・前立腺肥大症治療薬:ハルナール(一般名:タムスロシン)
男性に存在する臓器として、前立腺があります。前立腺は膀胱のすぐ下にあり、前立腺液を分泌するなどして精液を作る役割を果たします。
ただ、高齢になると前立腺が大きくなってしまうことがあります。前立腺は尿道を取り囲んでいるため、前立腺肥大を起こすと排尿が困難になります。そこで、前立腺に働きかけることで排尿困難を改善する薬として、ハルナールが活用されます。
・過活動膀胱治療薬:ベシケア(一般名:ソリフェナシン)
・過活動膀胱治療薬:ベタニス(一般名:ミラベグロン)
過活動膀胱(OAB)とは、我慢できないような尿意が急に起きたり、トイレへ急に行きたくなって漏らしてしまったりする症状の病気です。命に関わるわけではないものの、尿トラブルが原因で外出を控えるようになるなどの問題を生じます。
そこで、膀胱に働きかけることで尿を蓄えやすくし、過活動膀胱を治療する薬がベシケアやベタニスです。
免疫・アレルギー
移植や免疫疾患についてもアステラス製薬は強みがあります。
・免疫抑制剤:プログラフ(一般名:タクロリムス)
前述の通り、移植による拒絶反応を抑える薬がプログラフです。なお、同じタクロリムスを主成分として、徐放製剤にすることで1日1回の服用にした「グラセプター」という商品名で売られている薬があります。
また、タクロリムスを軟膏製剤にすることでアトピー性皮膚炎の治療薬にした薬としてプロトピック軟膏があります。
・関節リウマチ治療薬:シムジア(一般名:セルトリズマブ)
関節に腫れや痛みを生じる疾患として関節リウマチがあります。関節リウマチは免疫疾患であり、免疫の働きが過剰になることで生じます。そこで、免疫物質として知られるTNF-αに結合し、無効化することで関節リウマチを治療する薬がシムジアです。
シムジアは抗ヒトTNF-αモノクローナル抗体と呼ばれ、遺伝子組み換え技術を活用した生物製剤です。
・ぜんそく治療薬:シムビコート(一般名:ブデソニド・ホルモテロール)
ステロイドとβ-刺激薬を配合することにより、ぜんそくやCOPDを治療する吸入薬がシムビコートです。吸入後は素早く効果を表し、その効果も長く続くことが特徴です。
抗がん剤
アステラス製薬は抗がん剤も取り扱っています。
・前立腺がん治療薬:イクスタンジ(一般名:エンザルタミド)
男性特有のがんとして、前立腺がんがあります。前立腺がんは男性ホルモン(アンドロゲン)の影響が強く、男性ホルモンが作用することで前立腺がんは拡大していきます。
そこで、アンドロゲン受容体を阻害する薬としてイクスタンジが使用されます。男性ホルモンの働きを抑えることにより、前立腺がんを縮小させるのです。
感染症
感染症領域においても、アステラス製薬では広く使われている薬が存在します。
・セフェム系抗生物質:セフゾン(一般名:セフジニル)
アステラス製薬が自社開発した薬としてセフゾンがあります。セフェム系抗生物質と呼ばれ、幅広い抗菌スペクトルを有することから多用される抗生物質の一つです。
・キノロン系抗菌薬:ジェニナック(一般名:ガレノキサシン)
同じく幅広い抗菌スペクトルを有する薬がジェニナックです。キノロン系抗菌薬であり、マイコプラズマにも効果を示します。
消化器
消化性潰瘍や胃もたれなど、消化器領域の薬も保有しています。
・消化性潰瘍治療薬:ガスター(一般名:ファモチジン)
胃潰瘍や十二指腸潰瘍は胃酸によって生じます。そこで胃酸をストップさせれば、潰瘍を治療することができます。こうした潰瘍治療薬として、H2ブロッカーが広く活用されています。
H2ブロッカーの中でも、特に活用される薬がガスターです。ガスターはアステラス製薬が自社開発した医薬品です。
・機能性ディスペプシア治療薬:アコファイド(一般名:アコチアミド)
潰瘍など、検査して何も異常は見られないものの、胃もたれや食後膨満感などの胃症状を訴えることがあります。こうしたとき、機能性ディスペプシアと診断されます。
こうした機能性ディスペプシアの治療として、アコファイドが活用されます。
整形
疼痛や骨粗しょう症など、整形領域の医薬品も手掛けています。
・消炎鎮痛剤:セレコックス(一般名:セレコキシブ)
消炎鎮痛剤として広く活用されている薬として、NSAIDsがあります。ただ、NSAIDsは胃腸障害の副作用が知られています。そこで、NSAIDsによる副作用を軽減した薬(COX-2選択的阻害作用)がセレコックスです。
・骨粗しょう症治療薬:ボノテオ(一般名:ミノドロン酸)
骨粗しょう症の治療に多用される薬として、ビスホスホネート製剤(BP製剤)があります。ビスホスホネート製剤は「骨が壊される過程」に関与する破骨細胞の働きを阻害することで骨粗しょう症を治療します。
ただ、ビスホスホネート製剤は「起床後すぐに服用する必要がある」「食事をとっていたり、他の薬物と一緒に服用したりすると効果が落ちる」「服用後、30分は横になってはいけない」などの制限があります。そこで、月1回の服用でこうした面倒を軽減した薬がボノテオです。
循環器・糖尿病
高血圧や脂質異常症、糖尿病の分野においても、アステラス製薬は商品を保有しています。
・高血圧治療薬:ミカルディス(一般名:テルミサルタン)
高血圧治療薬の中でも、最も活用される薬としてARB(アンジオテンシン2受容体阻害薬)があります。ARBは降圧作用だけでなく、臓器保護作用が知られているからです。
そうしたARBの一つとしてミカルディスがあります。
・脂質異常症治療薬:リピトール(一般名:アトルバスタチン)
コレステロール値が異常に高くなるなど、生活習慣病として脂質異常症が知られています。脂質異常症の治療薬として、最も活用される薬がスタチン系薬(HMG-CoA還元酵素阻害薬)です。
このスタチン系薬として広く処方されている薬がリピトールです。
・糖尿病治療薬:スーグラ(一般名:イプラグリフロジン)
血液中の糖濃度が異常に高くなる病気が糖尿病です。このとき、腎臓で作られた尿には糖が含まれているものの、尿管(腎臓から膀胱へ異動するための管)を通っている間に糖は体内に吸収されます。このとき、「糖を尿管から体内に輸送する担体」としてSGLT2が知られています。
そこでSGLT2を阻害すれば、尿から多くの糖を排出させることで、結果として血液中の糖濃度を低下させることができます。こうした作用をする薬がスーグラです。
中枢神経
脳に作用することで効果を示す薬についても、アステラス製薬は保有しています。
・睡眠薬:マイスリー(一般名:ゾルピデム)
睡眠障害の中でも、寝つきのよさを改善する薬がマイスリーです。
マイスリーは超短時間型の睡眠薬として知られており、服用して1時間程度で効果が表れ、数時間ですぐに効果が消失していきます。そのため、薬の効果が翌日まで持ち越しにくいです。
・統合失調症治療薬:セロクエル(一般名:クエチアピン)
幻覚や妄想を訴える病気として統合失調症があります。統合失調症では、セロトニンやドパミンなど脳内の神経伝達物質が異常になっています。
そこでドパミンD2受容体やセロトニン5-HT2受容体の阻害作用に加え、ヒスタミンH1受容体、アドレナリンα1・α2受容体、セロトニン5-HT1A受容体、ドパミンD1受容体などにも弱い阻害作用を示し、多数の受容体に働きかけることで統合失調症を治療する薬がセロクエルです。
アステラス製薬のMRとして転職を果たす
このように、多くの新薬を取り扱う内資系の製薬会社がアステラス製薬です。
製薬会社によって扱う製品が異なり、強みも違います。例えば前述の通り、一般用医薬品やジェネリック医薬品などは扱わず、アステラス製薬はあくまでも医療用医薬品だけを販売しています。
また、泌尿器や免疫疾患では自社開発製品が存在し、シェアも高いのでこうした領域のMRとして活躍したい場合に、アステラス製薬は最適です。
MRとして中途採用されることを目指すためには、こうした会社ごとの違いを見極めたうえで求人募集に応募する必要があります。そうしたことを考慮して、志望動機や転職理由を考えるようにしてみてください。
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